「原理的にはできる」を超えるには

今回のエントリーですが、数日前にほぼ書き上げたところでパソコンがフリーズし、全部消えてしまいました。

なんとか気を取り直して、本題です。

今日は、パリティ、V0l. 25, N0.02 2010-02, p. 48, ニュースダイジェストから。以下、引用します。

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分子のレーザー冷却に向けて

原子のレーザー冷却によって、きわめて多くの極低温物理学の研究が可能になった。その一形態であるドップラー冷却という手法では、原子の共鳴よりわずかに低い周波数の光を、全方向から試料に照射する。原子の運動と逆向きの光子は、周波数がずれて原子と共鳴し吸収されて、原子の運動量は減少する。そして原子はランダムな方向に光を放ち、基底状態に戻る。このサイクルを何万回も繰り返すことで、試料を1 mKよりも低い温度まで冷却することができる。しかし、これと同じ手法を分子に適用するのは難しい。回転や振動の自由度があるせいで、崩壊して落ち着く先のエネルギーの低い状態が多数存在しているためである。各状態を別のレーザーで励起するのは極めて困難だが、レーザーによって励起されたのではない状態に分子が集積できるようにすると、サイクルが止まり、冷却はそれで終わりになってしまう。
 だが、エール大学のデミル(David Demille)たちは、このジレンマの解決法を実際に示した。励起した準位からほぼいつでも振動準位に戻る分子はいくつかあるが、そのうちの1つ、一フッ化ストロンチウムを集束し、また量子力学の選択則を利用して分子が取りうる回転準位を制限することにより、研究者たちは2つのレーザーを使って、SrF分子1個あたり約150回の吸収-放出サイクルを達成した。彼らは、分子-レーザー相互作用時間の増大は、もともと速度の小さい分子の冷却を行うのに十分であり、そして第3のレーザーを加えれば試料全体を減速し冷却するのに必要なだけのサイクルが達成できるだろうと見積もっている。(E. S. Shuman et al., Phys. Rev. Lett. 103, 223001, 2009)
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原子や分子をレーザーで冷却するお話です。レーザーを当てて冷やすという意味が分からない方も多いかと思います。詳しい話は、例えばリンク先をご覧いただくとして、ここでは簡単に触れておきます。xyz軸の6方向から原子の共鳴周波数よりわずかに低い周波数を持つ6本のレーザーを原子に照射します。ドップラー効果によって、原子の運動方向に対向するレーザーの周波数が原子から見て若干大きくなり、共鳴に近づきます。原子はレーザーの伝搬方向に向かって力を受けますが、共鳴に近いレーザーほどこの力が大きくなるので、原子は運動方向に対向するレーザーからより大きな力を受け、減速します。原子がどの方向に動いても、それに対向する力をより強く受けるわけです。「原子の速度が遅くなる=冷却される」という意味なので、どんどん冷却が進んでいきます。その到達温度は1 mK(絶対零度より1/1000度だけ高い温度)以下であるとのです。

このレーザー冷却、どんな種類の原子や分子でも「原理的には」可能と言われています。しかし、現実的にはなかなか難しいのが実情でしょう。大きな問題のひとつをざっくりと述べると、原子・分子がエネルギー状態を2つしか取らなければ、その差に対応する周波数のレーザー光源を1つ用意して6本に分ければよいのですが、実際にはとりうるエネルギー状態が幾つもあって、その分だけレーザーが必要になってくるのです。光源2,3台であれば問題ないですが、10台となると相当頑張る必要があるし、100台だったらお手上げでしょう。そうは言っても100台あればできるわけですから、「原理的にはできる」という言い方になります。

特に分子はエネルギー状態の数が多いので難しいようですが、その解決策をある程度示したというのが本文の内容です。しかし、詳細はよくわからないので、こちらで勝手に話を進めます。どんな原子・分子でも、現実的な台数の光源でレーザー冷却が可能になったら凄いことだと思います。ノーベル賞もありうるでしょう。そもそも、レーザー冷却自体、原子の運動方向に対抗してレーザーを照射して、原子が止まったところでレーザーを切れば「原理的には」冷却できるけど、一体どうやって原子が止まったことを確認するんだ?という難題を、より現実的な手法で解決したというのが凄いのだと思います。今回の難題についても、なんとか「原理的に」から「現実的に」になるといいですね。

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フェルミオンからボゾンへ

産業技術総合研究所で開発された人型ロボット「HRP-4C」をご存知でしょうか(リンク先参照)?美少女ロボットということですが、皆さんどう思われるでしょうか?

私はなかなか可愛いと思います。上司も美人だと言っておりました。でも、やっぱりもう少し大人びた方がいいかなあ。

今後の成長に期待しつつ、本題です。

本日のネタは、パリティ Vol. 24, No.05, 2009-05, p.4から。掲載から少し時間が経ってますけど、せっかく読んだので。以下、タイトルとちょっとした要旨だけ引用です。

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フェルミオンがボゾンに変わるとき

カルロス サ・デ・メロ (川口由紀訳)

相互作用や対の形成を操作できるという、他に類を見ない超低温フェルミ原子の制御性は、謎に満ちた強相関現象に対する洞察を与え、金属や原子核、中性子星で起こる超流動の物理を解き明かす。
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タイトルからすでに意味不明の方は多いでしょうねえ。「フェルミオン」と「ボゾン」の意味が分からなかったら、何も想像が付きませんものね。本文についてかいつまんで言えば、極低温に冷やしたヘリウム等で実現する超流動現象が、レーザーなどで冷却された気体の原子で実現できる。しかも、相互作用を外部から制御できるから、理論上考えられても実験できなかった系を実現することができる、といったところでしょう。

この話は、原子の波の位相が揃って可干渉(コヒーレント)になる、いわゆるボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)についての話です。私はBECを生成したり扱ったりしたことはないですが、縁遠い分野ではないので学会などではBECの講演を聞くことがよくあります。確かに、この種の研究は現在BEC研究の主流と言ってよいようです。冷却原子で分子を作ったり、超流動の渦をつくって何が面白いのかがぼんやりとしか分からなかったのですが、この記事をよんで少しは分かった気がします。

今回は本文が長い上にかなりハイレベルなので、正直言って全てをちゃんと理解できてないです。そのため、内容についてはざっくりとしか触れません。まず、「フェルミオン」と「ボゾン」から(詳しいことはリンク先を参照ください)。フェルミオンはスピンが半整数(1/2,3/2,5/2,...)の粒子のことで、ボゾンはスピンが整数(0,1,2,3,...)の粒子です。とにかく両者は性質が異なります。簡単に言えば、ボゾンは複数の粒子が同じ状態を占有することができるけれども、フェルミオンにはそれが許されないのです。ここで、フェルミオンの原子2つから分子ができると、スピンが整数になってボゾンになります。原子の速度を遅くするレーザー冷却や、磁場をうまく使って原子間の斥力・引力相互作用を制御するフェッシュバック共鳴を用いることにより、フェルミオン2つを合体させてボゾンの分子を作り、かつBECを生成して超流動を作り出す実験が可能なのです。しかも、フェッシュバック共鳴の磁場を変えることにより、原子間の相互作用を制御することができます。超伝導体や液体ヘリウムを用いた場合にはこれほど制御性をあげることができないようです。ここで、フェルミオン同士が弱く引き合っているときと強く引き合っているときとでは同じ超流動でも描像が違うようです。したがって、相互作用を制御できる冷却原子はそうした描像の違いや両者の中間状態を研究する上で重要な対象となっているとのことです。

気体原子でBECが初めて生成されたのが1995年。その6年後の2001年にはノーベル物理学賞の対象になりました。ノーベル賞は、その後の物理学の発展に大きく貢献しているか、世の中で役に立っているかなどを見極めたうえで、対象の研究成果が出たときから数十年後に授賞されることが普通です。授賞まで6年という短さは、おそらく「この成果が今後の発展に貢献するに決まっている」という見込みや期待があったからだと推察できます。で、実際に現在の状況はどうか?関係者に怒られるかもしれないけど、率直に言って、「研究が凄く進展しているのは認めるけど、当初の期待はこういうことだったんだろうか?」と私には思えます。そりゃ、BECの研究にのめりこんでいる人からすると、この研究はものすごく急速に進展していて、かつとても面白い研究なんだろうけど、私のような一歩引いた立場から見ると、基礎物理の探求ばかりで、いまひとつ応用が見えてこないのです。レーザーが発明されて約50年たった今、レーザーのおかげで確かに通信速度は桁外れに上がり、CDやDVDもでき、測定精度は飛躍的に向上し、精密な機械加工ができるようになりました。同じように可干渉性をもつBECは、「原子版レーザー」として当初脚光を浴びたはず。BECが初めて生成されてからはや15年弱、もうそろそろ応用が見えるような研究成果が出てきて欲しいと思います。応用方面では、BECとナノテクとの融合を目指した研究などが行われています。基礎物理はもちろん大切ですけど、そういう研究がもっともっと発展して欲しいと願っております。

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トレンドに逆行?

Q: 「ポーランド軍でかつて働いていた動物はなんでしょう?」
A: 「クマ」    だそうです(「クイズ世界ふしぎ発見」より)。

正解VTRでは思わず身を乗り出してしまいましたが、「冬になったら冬眠しちゃうじゃねえか」と、冷静になったところで、本題です。

今回は当ブログ初の英語のネタで。"Physics Today"の中の"Physics Update"から。
タイトル: Accelerating neutral atoms です。リンク先に全文掲載されています。ただし、別に記事を読まなくても分かるように話を進めていくつもりです。

まあ、簡単に言ってしまえば、電気的に中性の原子を、フェムト秒レーザと呼ばれるほんの一瞬しか発振しないけど、その一瞬にものすごく強い強度が出せるレーザを照射することによって加速した、ということです。加速度が10^15 m/s^2というから、わずか0.0000003秒で光速に達してしまうような加速です。それはそれは凄いです。(もっとも、10^-13秒しか照射しないから、原子の到達速度は50 m/s位のようですが)

イオンなどのプラスやマイナスの電荷を持った粒子なら電気的な力で制御できるのですが、中性原子の場合だとほとんど電気の力を受けませんから、やはりイオンよりも難しいはずです。この実験の場合、強烈な光が当たると、原子の中の落ち着いた状態だった電子が励起されて振動して、身動きの自由な電子として振舞って、力を受けるということのようです。しかも、その電子が原子核を引っ張っていって、原子全体が加速するとのことです。

ちなみに、レーザによる中性原子の制御というと、減速させるように頑張るのが普通です。そもそも、原子は室温では数百m/sで飛び交ってます。こんな原子たちの運動や位置を制御しようとしたら、まずこいつらを止めたいと思うわけです。そうして、20年近く前にレーザで原子をとめるレーザ冷却が開発されました。その後、ちょっと難しいですけど、原子の波が可干渉(コヒーレント)になるボーズ・アインシュタイン凝縮なるものも十数年前に実現して、とても騒がれました。そのほかにも、原子泉時計光格子時計などの超精密な時計でもレーザ冷却は使われていますし、原子をナノメートルの精度で制御しようという研究でも、レーザ冷却が必須になっています。今回の記事の実験は、そんなトレンド、というよりも今や常識と言ってもいいようなことに逆行していると感じます。

研究者の中でも、いろいろと考え方というか、理念があります。大きく分けると、世界の研究者が注目する分野でトップに立ってこそ良い研究だとする考え方、もう一つは、唯我独尊というか、誰も開拓していない分野を切り開いてこそ良い研究だとする考え方。何となく、私の印象ですけど、研究者の質としては前者は優等生、後者は大物っていう感じがします。今回のネタは完全に後者なのでしょう。この仕事はMax Born Instituteというドイツの研究所によるものですが、いかにもドイツらしい気がします。日本の場合だと、同じ問題を同じ制限時間で解いてどれだけ点数を取れるかって勝負が教育の基本になってますから、前者が多数派だと思います。ちなみに、私の場合は後者に憧れてますが、実際そうなっているかというと、なかなか難しいものがありますね。小物が大物ぶっているということなのでしょうか。

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プロフィール

バラッくま

Author:バラッくま
色々あったのち東京深川在住の科学技術系の研究者。
クマに似ている。最近はカピバラにも似ている。
専門: 量子エレクトロニクスなど。
休みのときは、(有休を取ってまでして)落語、スキューバダイビング、スポーツ観戦(相撲など。両国が近いのでうれしい。)、音楽鑑賞などを少しずつ。

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