難易度=重要性とは言えない

私、どういうわけか久々に会う人によく「痩せた?」と言われます。

全然変わらないか、むしろ太っているのに。

おそらく、太っている印象が強くて、しばらく会わないとイメージの中で膨張していくのでしょう。

得しているのか損しているのか判断がつきかねますが、本題です。


今日は、パリティ、Vol. 25 No.11 2010-11, p. 35「ニュースダイジェスト」から。

「不均質な媒質中で回折を受けないビーム」について

内容は、ざっくり言えば、以下のようになります。

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・アキシコンレンズ(円錐レンズ)を使うと、ガウス分布のプロファイル(強度分布)をもった光ビームが、0次のベッセル関数に似た形状のプロファイルに変換される。

・ベッセルビームは障害物のまわりにおいてでさえ、ほとんど回折しない。

・最近、ベッセルビームが著しい回折を受けずに不均質な媒質中を伝搬できることが実験で示された。

・ヒトの新鮮皮膚の試料でも同様の結果が得られた。ベッセルビームは新しい生物顕微鏡観察法の基盤になるかもしれない。
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原典の論文を読んでいないし、実験に精通しているわけでもないのですが、この記事を見たときの印象は、「やった実験は大した難度ではないはずだけれど、でてきた結果は面白そうだ」という感じです。

アキシコンレンズというとすごく特別なもののように感じますが、要するに円錐形をしたガラスの物体だと思います。私もかつてちょっとだけ使ったことがあります。ガウス分布のプロファイルを持った光ビームというのは、要するにレーザービームのことでしょう。アキシコンレンズにレーザービームを通すと、ベッセルビームという優れものができるというのです。

「回折」は波に特有の「回り込む」性質です。レーザービームは平行にまっすぐに飛ぶように見えるけれども、実際には完全に平行ではなくて、少しずつ広がっていくのです。障害物があると、顕著に「回り込む」のです。こんな基本的な性質が、ビームのプロファイルによって変わるんですねえ。

しかも、この記事を見る限り、特別な人が超絶技巧を駆使して行ったようには思えません。誰にでもできるというと言い過ぎかもしれませんが、そう特別な技術とも思えません。もし簡単にできるのだとしたら、いろんな応用に使いやすくて、とても有用でしょうね。もちろん、超絶技巧を否定するわけではないですが。

研究って、実験の難易度・労力と評価が必ずしも一致するわけではないですからねえ。とても頑張ったはずなのに論文にならないこともあれば、ひょこっと論文が書けてしまうこともあるし。そんなものだと思うしかないですな。まあ、とりあえず思うことは、このネタの成果は確かにすばらしそうだ、ということです。

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超微細スローモーションの究極[学部生・院生向け]

アメリカで行われた国際会議から帰ってまいりました。

税関で待ちながら、初めてアメリカの国際会議に行った時のことを思い出しました。

税関の人に、”How are you?”と言われて、”How are you”と答えた日のことを。

あいさつなんて考えてしゃべりませんからね。

Good morningにはGood morning、Good eveningにはGood evening、

でも、How are you にはHow are youではないんですねえ。難しいものです。

あの頃から少しは進歩したかなあと思いつつ、本題です。


今日は、日経サイエンス2010年11月号pp.77-85, 「極微の世界をとらえるナノムービー (A. H. ズウェイル)」より。

ナノサイズ(100万分の1mm程度)の領域でフェムト秒(1000兆分の1秒)という短時間に起こる現象を動画にするという話です。すさまじいですな。

動画が、
http://www.scientificamerican.com/blog/post.cfm?id=nanomovies-ultrafast-electron-micro-2010-08-11にあります。グラファイトという炭素構造のナノ結晶が、太鼓の膜のように振動する様子だそうです。フレームの幅は24ミクロンで、振動数は10 GHzから100 GHzだそうです。非常に小さな領域の高速な動きが鮮明にわかるんですねえ。

「4次元電子顕微鏡法」と名付けられています。電子顕微鏡ではあるのですが、試料に物理現象を開始させるきっかけと、観測用の電子を発生させるタイミングをレーザーで与えます。このレーザーがフェムト秒レーザーパルスという、1000兆分の1秒程度という一瞬の間だけ発生するレーザーなんです。だから、非常に高い時間分解能が得られるんですねえ。

電子顕微鏡自体は市販されていて、高価ですが自分で開発する必要は現在ではほとんどないと思います。しかし、このような新規な手法を開拓するなら、自ら作れないとダメなんでしょうね。すべての装置を、というわけにはいかないでしょうが、自前で作れるというのは独創的な研究をするうえで重要な要素の一つなのでしょう。

また、パルスレーザーの方はフェムト秒からアト秒(フェムト秒の1000分の1)の領域に入ってきているようです。こういう究極的な技術というのは、とどまるところがなさそうです。

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宝石が怒る?[一般、大学生向け]

私、不器用なのですが、ナシやじゃがいもの皮を剥くのは得意なんです。

これだけは妻よりうまいんです。自分でも何故だかわかりません。

ちなみに、みじん切りは苦手です。

なんのことやら分かりませんが、本題です。


今日は1960年8月8日の朝日新聞の夕刊に掲載されていた「科学特集」から。
全く最新トッピクスではなくて申し訳ありません。

50年前にレーザーが発明されたときの記事です。どういう訳かレーザー関係のネタは古いものばかり取り上げていますな。次は新しいトピックスをもってまいります。

なんでこんなに古い記事を見つけたかというと、レーザー発明以前から第一線で活躍されてきた某大先生が持っていらした新聞記事のコピーを、ありがたくも頂いたからです。字体からしてレトロな雰囲気なんですけど、中身を読むと、なかなか面白いんです。レーザーの原理について書かれた箇所を引用します。

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その原理は
        宝石の怒り
レーザーの装置は、この人造ルビーに、強い光をあてるようにしただけの、わりに簡単なものである。メイマン博士の説明によると
 まず、強い光線が人造ルビーの結晶にあたる。
 すると、その光線のエネルギーが人造ルビーのなかの原子を刺激(励起)する。そのため、それらの原子は、エネルギーの高い状態に持ち上げられる。人間にたとえれば、友達に悪口をいわれて興奮したような状態だ。
興奮した人は、最後には、たまりかねて怒りだし、大声を上げる。
それと同じことで、エネルギーの高い状態になった原子は、やがて余分のエネルギーを放出し始める。
 このとき放出されるエネルギーが、新しい光となる。この光は波長がほぼ一定しているのが大きな特徴だ。
 光の波長がほぼ一定しているのは、エネルギーの高い状態になった原子が、たがいに共鳴しているからである。たとえていえば、どの原子も同じリズムに合わせておどっているのである。ふつうの光の場合は、光源の原子が、それぞれ勝手に光をだしているから、光の波長は一定せず、短い波長のものや、長い波長のものが、入りまじっている。レーザーの最大の特徴は、波長のほぼ一定した光、つまり周波数幅のせまい光を出す点である。

(下線はブログ主が付加した)
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「レーザーの原理を述べよ」という試験問題で、「ルビーの中の原子が興奮して怒りだして大声を上げ、同じリズムで踊りだす」と答えたらおそらく一点ももらえないと思いますが、なかなか思い切った例えで分かりやすいし、かなり的をいているようにも思います。励起状態を英語でexcited stateといいますから、直訳すれば興奮したような状態となりそうです。記事からはメイマン博士がそう説明したように受け取れますが、さすがにやるなあと思います。

「興奮させる」というのは、個人的にはなかなか深みがあるように感じます。原子というのは不思議なもので、基本的にはある決まった波長の光によって励起される(興奮させられる)という性質があるんです。その波長から外れると、強い光を当てても励起されない(興奮してくれない)んです。人間にもそういうところがありますかね。普段、冷静で滅多なことでは怒らない人でも、人それぞれに怒りのツボみたいなものがあって、そこにはまるような言動にはついつい怒ってしまったり…。そういう意味では、やみくもに大声で悪口を言うのではなく、いかに怒りのツボを刺激するような一言を耳元でささやくかがレーザーを発振させるコツの一つなのかもしれません。

メイマン博士は当然ノーベル賞を取っているものだと思っていたら、実は授賞されなかったみたいです。CCDを発明して取れるのにレーザーを発明して取れないのはとても不思議な話だと思いますが、世の中そんなもんなんでしょう。


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一流は冗談がお好き?

昨日、スーパーの荷物を積めるためのテーブルの上に、買ったブドウを置き忘れて帰ってきてしまいました。

数時間後に気付いてスーパーに電話したら、「ああ、そんなブドウがありました。」といって、無事もって帰ることができました。

「日本っていい国だなあ」と思い、「オレって自らの馬鹿さ加減を運で乗り切ってきたよなあ」と回想したところで、本題です。


今日は、Optics & Photonics News, February 2005, pp. 14-16
“Edible Lasers and Other Delights of the 1970s” (Theodor W. Hansch)から。
ネット上にpdfが転がっていたので、リンクをはっておきます(英語ですが)。
http://copilot.caltech.edu/classes/aph9/edible-laser_one-drop-laser.pdf

Hansch氏が自らの1970年代の業績を回想しながら書いたものなので、決して新しいネタではないのですが・・・。

edible laserというのは日本語にすれば「食べられるレーザー」ということになります。1971年に、ゼラチンのデザートを用いて、レーザー発振させたとのことです。

今考えても冗談のような話ですが、70年代に本当にやってしまったんですねえ。「なんでこんなことしたの?」と聞きたくもなりますが、別に本気で食べられるレーザーを作りたいと思ったわけではなく、「どんなものでも十分に励起してあげればレーザー発振するんだ」という持論を示すためにやったのでそうです。「あのお菓子のゼラチンでできればさすがにみんな納得するんじゃないの?」と考えたのでしょう。

こんなファンキーなことをしたHansch氏も、そのボスだったSchawlow氏も、双方とも後にノーベル賞をもらうことになる超一流の物理学者です。やっぱり、スゴイ人は考えることが違う、ということなんでしょうか。

すでに40年近く経った今、別にこの食用レーザーが実用化されて人の胃袋で役に立っているとか、そんな話は全く聞いたことはありません。しかし、だから全く役に立っていないかといえば、そんなことはないんでしょうな。当時レーザーをつくっていた人たちがなかなか発振しなくて苦労しているときに、「ゼラチンで出来るんだからこれができないわけないだろ」と思わせるだけのインパクトはあったかもしれません。

それにしても、ノーベル賞の対象になった光コムの研究以外にも数々の業績を持つHansch氏が、回想した上でこのネタを取り上げるほど、本人にとっては重要な成果のようです。

僕にはなかなか真似できませんが、こういう冗談みたいなのもそれなりに大事だと思います。NatureやScienceのような超一流誌に載るとは思えませんが、研究の価値って、それだけじゃないんですよ、きっと。裾野に広げることだって、きっと大事なんですよ。

…と、NatureやScienceに投稿したことすらない私が言ってみる。

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なつかしきドーナツビーム

ドイツ代表が強いです。

ドイツサッカーといえばフィジカルですな。

私もドイツで、スポーツ選手でもない研究室の同僚数人との立ち話が私の頭上を飛び交っていたとき、

「こんな人達とサッカーやって勝てるわけない…」

と感じたのを思い出しました。

そういえば、私も28歳からのドイツでの1年半の間に身長が1-2cm伸びましたもん。

強さの秘密はDNAだけじゃないかもと思いつつ、本題です。


今日は応用物理、第79巻、pp.530-536の「フォトニック結晶レーザー (野田進)」を読んだら、ドーナツビームの記述があったので、それについて。

フォトニック結晶について語るのは私にはちょっと難しいですが、実は私の最初の論文がドーナツビームについての論文だったんで、「なんか、なつかしいなあ」と思ったものですから。

ここでいうドーナツビームというのは、真ん中が暗くなっているレーザービームのことです。

「そんなの、ガラス板に黒い点を書いておいて、そこに普通のレーザーを照射すれば出来るんじゃないの?」と言われそうです。黒い点をレーザーが通ることができない一方で、その周りの部分を透過すれば、簡単にドーナツビームができそうです。

確かに、可能です。でも、こうしてできたドーナツビームは、ガラス板を抜けた直後はきれいに穴ができていても、伝搬していくうちに穴が潰れていってしまうんです。光には波の性質があって、回りこむ特徴があるからです(これを回折と呼びます)。また、このドーナツビームをレンズで集光すると、焦点の位置では穴が潰れてしまいます。

で、どうやって遠くまで伝搬しても穴を維持できるドーナツビームを作るかというと、例えば、波の位相をうまく制御してあげるのです。位相というのは、簡単に言うのは難しいですが、波の上がり下がりのことです。要は、ある場所を通った後回折して穴の部分にきた光の波が高いときに、他の場所を通った後回折して穴の部分にくる光の波が低くなるようにして、光の波同士が互いに打ち消しあうようにするんです。これを実現する方法としては、ホログラムを使う方法などがあります。立体像が浮かび上がってくるホログラムをご存じの方も多いと思いますが、要はあれのことです。

フォトニック結晶レーザーの場合は「電磁界分布を制御する」と書かれているので原理が違うかもしれませんが、まあ、ドーナツビームを作るのはそんなに容易なわけじゃないことが分かっていただければよろしいかと思います。フォトニック結晶レーザーをスイッチポンでドーナツビームができるのなら、それは素晴らしいことだと思います。ドーナツビームを使うと、例えば物体には光を当てずにその周りを光で覆うことができます。応用例としては、不透明物質のための光ピンセットと本文に書かれております。

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プロフィール

バラッくま

Author:バラッくま
色々あったのち東京深川在住の科学技術系の研究者。
クマに似ている。最近はカピバラにも似ている。
専門: 量子エレクトロニクスなど。
休みのときは、(有休を取ってまでして)落語、スキューバダイビング、スポーツ観戦(相撲など。両国が近いのでうれしい。)、音楽鑑賞などを少しずつ。

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