理科年表の数値にも血と涙

前回の更新から間が開いてしまいました。すみません。

本当に忙しかったんです。
特に論文書きで忙しかったので、家で文章を書く気が全くおきませんでした。

ひと段落ついたので、今日からちょくちょく更新します。

いつも見ていただいて来た方は、これからも見捨てないように心からお願いします。

では、本題です。


今日は、パリティ、Vol. 25 No.11 2010-11, pp.14-19より。以下、タイトルと要旨のみ引用します。

************************
基礎物理定数

ピーター・ムーア、バリー・テイラー、デイビッド・ニューエル(藤井賢一訳)

最近のデータから導かれた物理学と化学の分野で用いられる基礎定数と換算定数について、もっとも新しい推奨値が公開された。
*************************

いったい誰が測っているのだろうと不思議に思うこともある、理科年表などに載っている基礎物理定数のお話です。調べれば書いてあるのですが、その値を精密に出すのも、実は大変なんです。

どこで測っているのかというと、やはり大学が多いようです。本文の図には、電子の異常磁気モーメントに関しては、ハーバード大学のデータが記載されています。

物理というのは不思議なもので、2倍3倍ずれていても桁さえ合っていればOKということもあれば、原子時計の研究のように、17桁あるいは18桁の精度でしのぎを削っていることもあります。何が知りたいかなどによって、まったく変わってくるんですよね。2倍ずれていても本質的に現象を説明していれば十分だったりもするし、ごくわずかな違いに本質的な物理現象の違いが現れる場合(またはその可能性がある場合)には、それが分かるまで精度を上げ続けようとするわけです。

アボガドロ定数などの基礎物理定数を基にして、たとえば1 kgの基準を決めようという話もあるようです。現在はキログラム原器という物体を基準にして1 kgが決まっていますが、1 kgの物体が1 kgであり続けるというのは、当たり前のようで実は当たり前じゃないようです。日本では、産業技術総合研究所が、変質や付着物などを防ぐように、とても厳重な管理をしていると思います。それに比べると、基礎物理定数というのは、おそらくいつでもどこでも一定の数値なんです。それでも絶対一定かと言われたら、だれも証明できないでしょうが。それでも、今までにはっきりと変化が観測された例はないはずですし、いくつもの質量が変化する要因がある原器よりも、はるかに一定であると信じられるわけです。

基礎物理定数の測定精度やそれを実際に質量などの単位に結び付けることなど、難しい問題は多々あるでしょうが、こんなところにも先端の科学技術が利用されるんですな。

気に入っていただけたら1クリックを
にほんブログ村 科学ブログへ

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

時計を持ち上げてみた

学会の休み時間に一人でたたずんでいたら、中年の男性が近寄ってきてあいさつしかけて、

「あ、すみません、人違いでした」と言われました。

「いえいえ、私似てる人が多いんです」と返しておきました。

神奈川県内だけで3人見つかっていますからねえ。

高校時代に「大和東高校のバトミントン部のキャプテンと親戚でしょう?」と聞かれたことを思い出しました。

平均的な日本人なのかなあと思いつつ、本題です。


今日はナショナルジオグラフィックニュース「地上の原子時計で相対性理論を確認」から。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100924003&expand#title

相対性理論によると、時間の進み方が重力に依存していて、標高が高くなると時間の進み方が速くなるのですが、わずか高さ30 cmの差だけで生じる時間の進み方の違いを地上においた原子時計で観測したというのです。

ほとんどの方には標高の違いによる時間の進み方の変化が観測されたことが驚きかもしれませんが、これ自体はそれほど目新しいことではないと思います。宇宙空間にあるGPS衛星に搭載された原子時計の進み方が地上の時計と違うのははっきりしていますし、例えば高精度な原子時計を開発しているアメリカの研究所NISTと日本の産業技術総合研究所とでは標高が違うので、その分の時間の進み方のずれを補正してあげないと両者の時計の進み方が一致しないことは、もう何年も前から分かっていることだと思います。そういう意味では「地上の原子時計で相対性理論を確認」というタイトルには少し違和感を覚えますが、それにしてもわずか30 cmというのはさすがに凄い事だと思います。「注目すべきはむしろ、原子時計の驚異的な精度の方ではないか」というクレップナー氏のコメントは、確かにその通りだなあと思います。

しかも、「2つの原子時計のうち一方を約30センチ上へ持ち上げ」とあっさりと書かれていますが、そのへんの柱時計を持ち上げるのと訳が違いますからねえ。アルミニウム原子時計って、たしか非常によい真空を作って、その中に非常によく制御されたレーザーを照射して、さらにアルミニウムイオン一個だけを捕獲して使ったり、その他この程度ではとても語れないとんでもない技術のオンパレードだったと思います。詳しくはもっとちゃんとした論文を読まなきゃ分からないでしょうけど、想像を絶しますな。ただただ脱帽です。

気に入っていただけたら1クリックを
にほんブログ村 科学ブログへ

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

価値が分かれば一人前?

この間、12月30日にNHKから紅白歌合戦に欠場者が出たから代わりに出てくれという電話が来た夢を見ました。

とりあえず間に合うように10分前に行ったら、怒られて、別の人が出て熱唱しておりました。

オチらしいオチはありませんが、本題です。


今日は、パリティ Vol. 25 No.7 2010-07, pp 4-12より。以下、タイトルと簡単な要旨のみ引用します。

*********************
アハラノフ・ボーム効果:微妙なテーマの変奏

ヘルマン・バテラーン、外村彰 (江沢洋 訳)

力の場に触れなくても電子が電磁ポテンシャルから影響を受けるという、50年前に導入された考えは疑問とされ、多くの実験的検証やもともとの考えの拡張を生み出した。
**********************

アハラノフ・ボーム効果(AB効果)という、有名な量子力学の現象に関する過去の研究と最近の進展について書かれた記事です。AB効果のそれなりの説明はウィキペディアに、もっとちゃんとした説明は他の専門書に譲るとして、AB効果について具体的な例を挙げると、理想的なソレノイドコイルのそばを電子が通過したとき電子の波の位相が変化する現象、ということでよろしいと思います。「理想的なソレノイドコイル」というのはコイルの中には磁場が励起されているけど、外側の磁場や電場が0であるコイルのことで、普通に考えれば磁場も電場もないところに電子が通っても何も起きませんが、実は電子の波の位相に変化がおきて、例えば本来波の山が来るはずなのに谷が来てしまう、といったことが起きるというのです。

私自身、別にAB効果を研究しているわけではないですが、割とよく耳にする話で、物理において非常に重要な現象なのでしょう。こういう曖昧な言い方をするのは、面白い現象とは思うけど、どこまで重要なのかをおそらくあまり理解していないからです。こういう現象の面白さを、どこかの本に書いてあったこと丸写しじゃなくて、自分の言葉で説明できる人は物理学を本当の意味で理解しているんだと思うし、もっとすごい人はその人しか知らない価値を見出したりするのでしょう。私はその域まではなかなか達しませんね。

このAB効果を実証したのが著者の一人である外村先生です。それまでは、どうしても磁場が漏れてしまって、電子の位相のずれがAB効果によるのか漏れた磁場の影響なのかがはっきりしなかったようですが、ドーナツ型の磁石を超電導性のニオブで包むことによって磁場の漏れを完全に止め、AB効果を実証したのだそうです。

これで完全に解決してやることがなくなったのかというと、決してそんなことはないようで、磁場ではなく電気的なAB効果とか、磁場的および電気的AB効果は双対的であると予測されているとか、いろいろあるようです。その辺が本文のテーマですが、難しすぎてどう説明してよいやら分からないので止めておきます。

ちなみに、Thomson Reutersという所がやっているノーベル賞予想では、2009年にアハラノフさんの名前がリストアップされています。(http://science.thomsonreuters.com/nobel/)あまり当たってないように思いますが、有力候補の一人であることは間違いないでしょう。外村さんの同時受賞というのも期待したくなります。

気に入っていただけたら1クリックを
にほんブログ村 科学ブログへ

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

想像を絶する精度

英語の研修でホワイトボードにbeer(ビール)と書くつもりが無意識のうちにbearと書いていました。

もうクマが染み付いちゃっていますなあ。

くだらないと言われようと、本当なんだから仕方がないんです。

さて、本題です。


今日は、日経サイエンス2010年7月号pp.24-25から。以下に最初の第1パラグラフのみ引用します。

また、文科省の「最先端研究基盤事業」のページにある
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/06/__icsFiles/afieldfile/2010/06/22/1295019_4_1.pdf
のp.13にも簡潔にまとめられた図などが載っています。

******************************
重力波天文台の開発大詰め

時空の"さざ波"を超高感度で検出する装置の開発が神岡の地下で進んでいる

 奥飛騨山中、地下1000mの神岡鉱山(岐阜県飛騨市)で、宇宙から来る時空の"さざ波"、重力波を捉える装置の開発が大詰めを迎えている。重力波が生み出す空間の伸び縮み(変化率)を超高感度で検出する「重力波天文台」の一種で名前は「CLIO(クリオ)」。目標感度は10^-19。例えば長さ1mの棒に10^-19mの伸び縮みをもたらす重力波を検出できる。「調整を進めてきた結果、10^-18を切る感度まで到達、目標が見えてきた」と建設に携わる東京大学宇宙線研究所の大橋正健・准教授は話す。
******************************

重力波というのは、「時空のひずみがさざ波のように空間を伝わる現象。存在は確実であるが、未だ直接検出されていない」のだそうです。これはしかし、とてつもない精度ですな。10^-19の感度というと計算上、直径約10000kmの地球の大きさが10億分の1mm変化するのが分かるレベルということになります。ナノテクでおなじみのナノメートルが100万分の1mmで原子のサイズがその約10分の1。さらにその100分の1ですからなあ。あまりにとんでもなさ過ぎて、計算が合っているのか不安になってきます。皆様ご自身でご確認下さい。

測定の原理は意外とシンプルなようです。レーザーを2枚の鏡で往復させる系を2つ作っておいて、両者を干渉させる(重ねあわせる)のだそうです。鏡の間の距離が微妙に変わると干渉パターンが変化します。したがって、干渉パターンの変化から、重力波によって生じた鏡の間の距離の変化を高感度に検出できるとのことです。

しかし、CLIOでは鏡の間の距離は100mで、次世代の「LCGT」は3kmに及ぶのだそうです。これを地下深くに作るのだそうです。しかも、空気などの乱れの影響を受けないように極限的な真空を作る必要があるだろうし、鏡が振動したらダメなどころか、鏡の表面の原子が熱の影響を受けてヒョロヒョロと動き出すだけでも影響するかもしれないし…。私の想像するチェックポイントを何とかするだけでできるとは到底思えませんし、絶句してしまいますな。

お金も掛かりそうですけど、前述のように最先端研究基盤事業に選ばれたようです。「所要額」ということで確定なのかわかりませんが、3年間で98億円だそうです。やるからにはぜひ一発当ててノーベル賞を取ることを願っております。

p.s. 旅に出るため来週末まで更新をお休みします。

気に入っていただけたら1クリックを
にほんブログ村 科学ブログへ

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

はやぶさを待ちわびてきた人々

ワールドカップ日本代表が私の想像以上に頑張っております。

今のところこれ以上ない結果だと思います。第3戦勝負ですな。

これで決勝トーナメントに進出したら、あれだけ酷評されていた岡田監督が名将の仲間入りですなあ。分からないものです。

私も素人ながらに酷評しておりましたが、結果出したらどんな内容であれ、認めるしか無いでしょう。

私は手のひら返す気満々です。

さて、本題です。

今日は、応用物理、第79巻、第4号、p.0291 (2010) 「巻頭言(-先端計測・分析機器開発にみる光と影
「はやぶさ」よ,帰って来い!:志水一)」から。
http://www.jsap.or.jp/ap/2010/ob7904/p790291.htmlで見れます。

先日、小惑星イトカワから地球への帰還を果たした「はやぶさ」に関連した話です。持ち帰ったサンプルを分析する機器の開発の歴史について簡単にまとめられています。なお、掲載されたのは数ヶ月前ですので、文章ではまだ帰還を待ちわびていることになっています。

科学技術の発展に様々な社会的・政治的な背景が深く関わっていることが見て取れます。そして、日本の計測分析機器の栄光のために「はやぶさ」の帰還が待ちわびている様子が伝わってきます。

二次イオン質量分析装置(SIMS)というものに関しては私はよく知らないのですが、組成や化学構造を精密に計測する装置だそうです。一般家庭で必要なものではないですし、逆に素粒子実験に使うような超巨大な装置でもないので、地味な印象が拭えませんが、私が思うにこういった精密計測装置というのは最も技術を要する装置の一つだと思います。そしてこういったものに限って、できた当初は科学の最先端であったり、場合によっては軍事目的でしか、使い道が無かったりするんです。

とはいえ、時期が経つにつれて段々と他の用途でも高い精度が要求されるようになり、商品として売れるようになるんじゃないでしょうか。その時に他国の機器メーカと競争になって、仮に同等の装置が登場したとしても、「あのイトカワのサンプルの分析に使われた」となると、相当有利だと思います。やっぱりカタログやスペックシートを見ても、完璧には判断が付きませんもん。しかも、とても高価な製品でしょうから、買ってみて考えるというわけにもいきませんし。

「はやぶさ」のプロジェクトは宇宙開発だけじゃなくて、いろんな裾野がありそうです。経済的な視点だけで、掛けた資金に対してどれだけ儲かるかと聞かれると私にはよく分かりませんけど、とにかく最大の利益(お金だけじゃなくて)を得られるように、うまくやるべきでしょうなあ。そこら辺を任されるのは、個々の企業?、文科省などの官僚?、JAXAの職員?、大学教授?。下っ端研究員の私にはよく分からないし、正直どれもピンと来ませんけど、戦略とリーダーシップは必要だと思います。

とりあえず、今のところカプセルには1 mm以上の大きさの物体は入ってないことはわかっているようですが、ちょっとでもいいから何か入っていて欲しいものです。JAXAのホームページによれば、「小惑星は惑星が誕生するころの記録を比較的よくとどめている化石のような天体」とのことですので、精密分析によって惑星の誕生の謎が解明されると凄いですね。

気に入っていただけたら1クリックを
にほんブログ村 科学ブログへ

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

バラッくま

Author:バラッくま
色々あったのち東京深川在住の科学技術系の研究者。
クマに似ている。最近はカピバラにも似ている。
専門: 量子エレクトロニクスなど。
休みのときは、(有休を取ってまでして)落語、スキューバダイビング、スポーツ観戦(相撲など。両国が近いのでうれしい。)、音楽鑑賞などを少しずつ。

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
気に入っていただけたら1クリックを
人気ブログランキングへ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード