怪文書?

結婚して一緒に住むようになってから1年半以上が経過していますが、未だにどのタオルが、洗面所用なのか、台所用なのか、トイレ用なのか、覚えられません。

唯一、クマの絵の描いてあるタオルがトイレ用だということだけは分かります。

そうです。クマさんは人の嫌がることを率先してやるんです。

さて、本題です。


最近ネットサーフィンしていたら、「原発がどんなものか知ってほしい」(http://genpatsu_shinsai.at.infoseek.co.jp/hirai/)というページを見つけました。原発の現場で働いてこられた平井さんという方が原発の実態を告発したもの、と解釈してよろしいかと思います。かなり衝撃的な内容です。

それに対して、原子力関係者の方々から、上記のホームページに対して反論するページが御座います。私が調べた範囲では「原発がどんなものか知ってほしい[ Feed Water Equipment Panel ]」(http://user33.at.infoseek.co.jp/)、 「嘘? ホント?問題文章「原発がどんなものか知ってほしい」について」(http://www2s.biglobe.ne.jp/~asashi/genpa/)といったところです。ちなみに後者にはいくつかリンクが張られていて便利かと思います。

さらに案の定というか、この反論にさらに反論を加えるページというのがあります。私の目に止まったところだと、「シートン俗物記」(http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20070816/1187236401)、「いなかもの日記」(http://d.hatena.ne.jp/JPLAW/20080220/1203522749)といったところです。

私は何も知りませんでしたが、元の「原発が…」は以前ネット上で非常に有名になったものらしいです。どうにもこの手の問題というのは、基本的には科学技術の問題であるはずですが、利害関係はおろかイデオロギーまで絡んできてしまうので、いったいどの情報を信用して良いのやら、訳が分からなくなってしまいます。ちなみに、「嘘?ホント?…」のページによれば、「原発が…」は、「一部事実が含まれてはいるものの、その殆どが間違いで構成されている極めてアホらしい文章」なのだそうです。「平井氏の文章に含まれる誤りは、一般の方でも簡単に検証できるレベルのものが殆ど」で、「怪文書」と呼んでいるものさえ見かけます。

で、私はどう思ったかというと、確かにおかしな点はいろいろあるんですけど、正直そこまでは思いませんでした。一応、応用物理学科を卒業して、電子工学系の専攻で博士号まで取っているのに、お恥ずかしい…。でも、放射性物質のことなんて、学部のときに学生実験でコバルトだかなんかの実験をやったような気がする、ってくらいなもんですからねえ。理系でもない方が「原発が…」を読んで素直に信じるのは、別におかしな事でもないと思うんですけど。むしろ、「アホらしい」とか「怪文書」とか言われると、読む前から無意識のうちに「原発が…」を真面目に受取っちゃいけないかのように思ってしまいます。私も含めて(と自分で言うのも難ですが)、インテリが陥りやすい罠の一つでしょうな。頭のいい人ほど、「そんなことも知らないの?」っていう展開に持ち込まれたくないというのはあるでしょう。

でも、「原発が…」には、怪文書で済ますのは勿体無いような、結構大切な事も書いてあるように私には思えるんですけどねえ。もう長くなってしまったので、次回のエントリーでそのへんに触れたいと思います。

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いかにも難しそうな気がする

皆様、明けましておめでとうございます。

昨年末に妻のおばあさまからクマのぬいぐるみを頂きました。ありがとうございます。
バラ柄の服を着た青いクマなのですが、スゴいんです。

クマ猛ダッシュ

走るんです。

新春早々、待望のアスリートグマが仲間入りしたことを喜びつつ、本題です。

今回も雑誌"Science"の"breakthrough of the year 2009 第2位から第10位まで"から。http://www.sciencemag.jp/breakthrough/2009/detail_01.htmlに掲載されていますが、以下に引用ておきます。

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「世界初のX線レーザーの光」

今年4月、かつてないタイプの光が忽然と現れた。カリフォルニア州メンロパークにあるSLAC国立加速器研究所(SLAC National Accelerator Laboratory)の物理学者は、この世界初のX線レーザーのスイッチを入れた。線型加速器コヒーレント光源(Linac Coherent Light Source:LCLS)と呼ばれる130メートルもある新型施設は、研究所の3kmに及ぶ線型粒子加速器によって作動する。この施設は4億2,000万ドルを費やしたユーザー機能の核になる部分であるが、建設に3年を要したものの、研究者が施設を始動させるには2時間とかからなかった。

LCLSは1つのツールであるが、これまでの装置と比べて定性的にはるかに進歩していることから、まさに「ブレイクスルー」と呼ぶにふさわしい。過去数十年にわたって、科学者たちは物質の原子スケールの構造を精査するのにX腺を使ってきたが、輝度が従来のX線源の10億倍というLCLSは、パルス幅も200万分の1ナノ秒と短く、進行中の化学反応の静止画像も十分に撮影することができる。簡単に言えば、LCLSは原子スケールの空間分解能と時間分解能とを兼ね備えた初の装置だということである。また、コヒーレント量子波でX線を発生させるため、研究者は従来のレーザー用に開発された技術を借用することもできる。

10月にはLCLSを使った実験がスタートした。科学者たちは1分子の標本から蛋白質の構造を確定したい、あるいは物質のあらゆる原子から内殻電子を破り取り、物質がどう反応するのかを調べてみたいと考えている。ただ、シンクロトロンと呼ばれるX線源がすでに構造生物学者や材料科学者に大きく貢献していることを考えると、いったいこの最新式のLCLSに何が期待できるのかという疑問も湧いてくるが、科学者たちも「これで何ができるのだろう」と自問していることからも分かるように、LCLSというのは、だれひとり予想もできない飛躍的進歩をもたらす可能性を秘めた、今までにないまったく新しいものなのである。

CREDIT: BRAD PLUMMER/SLAC
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レーザーは波の位相のそろった単色の光で、指向性が良く、強度を強くできるという特徴があります。プレゼンテーションなどで使うレーザーポインターを使ったことのある人なら、難しいことは抜きにして、レーザーと蛍光灯などの普通の光との違いは感覚的に分かるんじゃないかと思います。この話に出てくるX線レーザーは、X線でこうした特徴を持っているということでしょう。

光とX線の一番の大きな違いは波長です。0.01 nmから10 nm(1 nm=100万分の1 mm)の波長の電磁波をX線と呼んでいるようです。光の波長は大体500 nmくらいですから、X線の波長は2桁から4桁短いです。私はX線については詳しくは知らないのですが、一般的に波長の短いレーザーを作るのは難しいですから、X線レーザーを作るのは本当に難しいのだろうなあと想像されます。以下では、X線レーザー作製のどういうところが難しそうなのか、仕事でレーザーをよく使用する私が想像できる範囲内で書いていきたいと思います。ただし、X線を扱った事は無いですから、信憑性は薄いことをご了承ください。レーザーの原理が分からないと難しいと思うので、文末の補足に私なりにレーザーの原理をまとめておきました。そのほかウィキペディアなどにも載っています。

では、私が考えうる範囲でX線レーザーの難しさを以下に書いていきます。

1. 反転分布を作るのが難しそう

光の波長は、レーザー媒質となる原子のエネルギーが高い状態のときと低い状態のときのエネルギー差に反比例します。ですから、波長が1/100ということは、100倍高いエネルギー状態に励起してあげる必要があるということです。これで反転分布を作るわけですから、さぞかし難しいだろうと推察されます。

2. 鏡の研磨や位置調整が難しそう

レーザーのために用いる光学部品は大抵の場合、波長の1/10くらいの精度で凸凹のないなめらかな面になるように表面が研磨されています。X線レーザーで波長の1/10となると、1 nm以下になります。原子1つの大きさが大体0.1 nmくらいですから、原子レベルでなめらかに研磨する必要があるといってもいいかもしれません。そもそも光の鏡よりもX線の鏡を作る方が大変そうですし、それをより高精度に研磨するとなると難しそうです。また、波長が短いほど鏡の位置をより精密に微調し、かつ位置が安定している必要があると考えられます。

3. 1.と2.を両立させる

1.をやるためには原子に高いエネルギーを与える装置が必要だと思うので、熱が発生しそうだし、振動も起きそうな気がします。それが鏡を揺らしたり、熱の影響で鏡の表面の原子がフラフラと動いてしまって悪影響を及ぼすかもしれません。つまり、エネルギーををガンガン与えなければいけない一方で、加えたエネルギーによる擾乱をなるべく抑制する必要も出てくると推察されます。


まあ、極限的な技術のオンパレードなんでしょうなあ。

補足:
レーザー発生装置は典型的には、エネルギーが高い状態から低い状態に変わるときに光を発する媒質を、2枚の鏡で挟んだような構造をしています。媒質には色々な種類が考えられますが、以下では多数の原子ということで話を進めていきます。放電などで原子にエネルギーを与えて、エネルギーの高い原子の数がエネルギーの低い原子の数よりも多くなるように励起します(専門的には反転分布を形成するといいます)。原子がエネルギーの高い状態から低い状態に自然と移り、光を発します。その光が鏡で反射されて戻ってきます。エネルギーの低い原子に照射された場合には光は吸収され、原子はエネルギーの高い状態に移りますが、エネルギーの高い原子に照射された場合には逆に原子から光を放出させて(誘導放出といいます)、原子はエネルギーの低い状態に移ります。光が鏡の間で何度も反射される間にこうした吸収-誘導放出過程が繰り返され、鏡の間隔=波長/2の整数倍の共振条件を満たす波長の光が増幅されていき、レーザーとなります。実際には片方の鏡の反射率を少しだけ小さくして、レーザーを外部に取り出します。

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プロフィール

バラッくま

Author:バラッくま
色々あったのち東京深川在住の科学技術系の研究者。
クマに似ている。最近はカピバラにも似ている。
専門: 量子エレクトロニクスなど。
休みのときは、(有休を取ってまでして)落語、スキューバダイビング、スポーツ観戦(相撲など。両国が近いのでうれしい。)、音楽鑑賞などを少しずつ。

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