超微小物体の影

もうこのブログは書かないつもりでいましたが、ホームページ自体は残っているし、別に鉄の意志を持って書かないと決めなければいけないわけでもないので、気が向いてきたときに書いてみようかと思います。

サッカーのユーロも終わったことだし。ドイツ負けたけど。

やめるやめる詐欺と言わずに、暖かく見守っていただけると嬉しいです。


さて本題です。

今物理のホットな話題というと、一般のニュースでも取り上げられたヒッグス粒子観測に関することでしょうが、私にはこれで話題を広げられるような知識も情報も持ち合わせていないので、あくまで個人的に面白いと思ったナショナルジオグラフィックのこの記事から。
http://topics.jp.msn.com/life/environment/article.aspx?articleid=1191655
以下、少しだけ引用します。

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単一原子の影の撮影に初めて成功
1つの原子の影が世界で初めて撮影された。可視光で撮影された史上最も小さな対象だ。この画像化技術には、遺伝子研究や暗号化技術など、幅広い応用の可能性があるという。
最先端の画像化技術を追求する研究者たちが用いたのは、イッテルビウム(原子番号70の元素)の荷電原子、つまりイオンを真空の電場の中で浮かせ、レーザービームを当てるという方法だった。ビームの太さは原子の大きさの1000倍ほどある。
 イッテルビウム原子は、レーザー光のごく一部を吸収するため、背景に影ができた。その影を顕微鏡のレンズで拡大し、デジタルカメラセンサーで記録した。
・・・
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単一の原子の影が観測された、という話です。原子の共鳴周波数に同調する光を原子は吸収しますから、そりゃ裏側に影ができるよな、とは思います。しかし、光には回折と言う、回り込む性質がありますから、光の波長よりもはるかに小さい原子の裏側の影はすぐに消えてしまうようにも思えます。どんな形の影ができるのか、想像するのが難しいですが、リンク先の写真のような、真ん中の濃い影のまわりにリング状の影ができるんですねえ。

原子というのは共鳴周波数にチューンされた光のみを吸収する一方、共鳴周波数から外れた光は吸収しないという不思議な性質を持っています。その一方で、共鳴周波数付近で光の周波数を変えると急激に屈折率が変化するという、これまた不思議な性質があります(「屈折率」という言葉は不正確だと思いますが、お許しを)。屈折率の変化は、「影の形」に現れるはずです。単に吸収量を測るのではなく、影の形を観測するというのは、光と原子の間の相互作用を深く知る上で重要になってくるかもしれません。

もちろん、これは原子以外の微小な物にも言えることです。リンク先にも書いてあるように、生きている細胞のDNAの研究などに進展したら、とても面白いですね。

次の更新はいつになるか分からないですが、あしからず。

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正反対の原子

投稿していた論文が掲載拒否になってしまいました。約一年前から投稿し続けて、これで4誌目。

結構自信作なんだけどなあ。こんなことは今回が初めてです。

まあ、このブログのようにのんびり気長に投稿し続けることにしましょう。


さて、本題です。

今回は、「反水素」について。

水素は中心にプラスの電荷を持つ陽子があり、その周りをマイナスの電荷を持つ電子が回っているわけですが、反水素というのは、マイナスの電荷を持つ反陽子のまわりをプラスの電荷を持つ陽電子が回っている物質のことを言います。水素と反水素は基本的には同じエネルギー構造を持っていて、例えば強く吸収される光の周波数は両者とも等しいわけですが、これらの周波数が本当に等しいのか、等しいならどのくらいの精度まで等しいといえるのかを調べる研究(よく「分光」と呼びます)が進んでいるようです。パリティの2012年1月号の「物理科学、この一年」というシリーズに反水素の研究の記事が載っているのですが、それによればこの研究は、「私たちの住む宇宙がCPT対称性をもっているかどうかという、現代物理学の根幹に関わる命題を実験的にテストする」ものなのだそうです。

CPT対称性や反水素分光の詳細についてはここで書くより、http://nucl.phys.s.u-tokyo.ac.jp/hayano/jp/cpt%E5%AF%BE%E7%A7%B0%E6%80%A7.htmlなどを参照していただいた方が良いと思うのですが、思えば2005年ごろに滞在した海外の研究室で聞いた最初のセミナーがこの反水素の発表だったので、ちょっと懐かしく思ったわけです。

私はこのプロジェクトに入ったわけではなかったですし、anti-Hydrogen(=反水素)という単語からして知りませんでしたから、英語で聞いてもほとんど分かりませんでした。「これでやっていけるのだろうか?」と少し不安になったものでした。内部のセミナーを聞いてから外部に公開されたホームページを見て勉強したわけですから、なんだか訳がわからりません。

あの頃は、まだ目標としている実験結果が出るような状況ではなくて、発表も下準備のような話(でも、こういう話ほど、往々にして技術的にはハイレベルなのです。)が主だったと思うのですが、今では反水素を空間の一点に捉えたり、大量合成したり、色々と進んでいるようです。

私が滞在した研究室の大ボスは、水素原子の精密分光をひたすら何十年もやり続けてきた人で、現在実現している14桁という精度に多大な貢献しているのですが、そのデータが反水素との比較で生かされるわけですから、「石の上にも○十年」というのも、必要なことなのでしょう。

私も、一年くらい論文が通らなくても、何食わぬ顔でがんばろうと思います。

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固体のことを気体でやってみる[学部・院生向け]

横浜ベイスターズの売却話が破談になりました。

売却先の会社は新潟に本拠地を移すことも考えていたそうで、私としてはとりあえず当面は横浜に残りそうなのでほっとしております。

しかし、売る気満々のオーナーのもとで1年やるのも選手はどう思うんだろう?

来シーズンを考えると、ファンの私としては「野球は何が起こるか分からない」という言葉にすがるしかないのかと思いつつ、本題です。


今日は、パリティ、Vol. 25 No.09, pp.14-23から。以下タイトルと要旨のみ引用します。

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極低温原子で見るアンダーソン局在

アラン・アスペ、マッシモ・イングッシオ (高本将男 訳)

局在した物質波を観測するために、2つの実験グループが、ボーズ-アインシュタイン凝縮体を、不規則ではあるがレーザー光で自在に制御できる光ポテンシャルの中に閉じ込めた。
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ある物質の内部がわずかに乱れると、電気を通す伝導体から通さない絶縁体へと突然変化することが約50年前に理論的に予測されたとのことです。ちょっと難しいですが、結晶は周期的なポテンシャル井戸と捉えることができて、そこでは電子の波動関数は広がっているけれども、ポテンシャルの深さが不規則にある程度以上乱れると、波動関数がある場所に局在するのが理由なのだそうです。自由に伝わっていた波が、突如どこか一箇所で止まってしまった、とでも言えばいいのでしょうか。

本来固体中で起こる現象なのですが、固体中の電子の場合だと、お互いに反発するとか、ポテンシャルが振動するなどの理由で、アンダーソン局在を直接観測するのは難しいのだそうです。そこで、気体の原子を使おう、しかも、多数の原子が同じ波動関数をもつボーズ-アインシュタイン凝縮体(以下、ボーズ凝縮体といいます)を使おうというのです。実際、光で作った不規則な乱れをもつポテンシャルによって、原子が局在することが観測されております。ここまででも十分難しいので、これ以上の内容には触れないことにします。

もともとは固体中でのお話だったはずですが、固体中と同様の状況を人工的に作ってあげて気体原子で実験するわけですから、不思議なものです。最近のはやりなんでしょうかね。

ボーズ凝縮の研究がどうしてこういうふうに展開してきたのかにも少し興味があります。たしか90年代の半ばくらいに気体のボーズ凝縮が実現して、そのあとはこぞってレーザーなど光科学の進展をなぞるように、光で実現していることを原子(原子波)で実現するのがトレンドだったと思います。このての研究をしている人たちは往々にしてレーザーのエキスパートなので、この展開はよく分かるんですけどね。このあと固体の現象を気体で実現する方向へ向かうのが、自然発生的なのか、一人のすごい人が切り開いたのが元になっているのか、異分野間の交流が盛んだったのか、どうなんでしょうか。技術的なこともそうですが、なにをやったら面白そうかを考えるのも大変そうです。

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殆ど見ない周期律表の下の方

前回から間が空いてしまってすみません。

さて、私が書いた論文が他のどんな論文の参考文献になっているんだろうと思って、昨日調べてみたら、

インドのクマー(Kumar)さんという方の論文で参照されておりました。

こんなところでもクマと繋がっていることを喜びつつ、本題です。


今日は117番目の元素が見つかったというニュースを。

とりあえず周期律表を見ると、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%A8%E6%9C%9F%E8%A1%A8
ずーと下の方にある元素ですが、ロシアとアメリカの共同で作りだしたのだそうです。

見つかったばかりですし、正直、なんの役に立つのか分かりません。周期律表の上の方は高校の頃20番くらいまで覚えさせられた記憶があるし、19-36番の列はカルシウム、鉄、銅、ニッケル、ガリウム、ヒ素など、重要な元素が目白押しですが、一番下の87-118の列だと、ウランやプルトニウムなど放射性元素としてよく知られたものもありますが、ほとんど聞いたことないようなものばかりです。

しかし、それでも何が出てくるか分からないだろうし、宝探しみたいなものなんでしょう。地味といえば地味ですが、人工で元素を作りだすわけですから、結構大掛かりな実験のようにも見えます。原子番号97のバークリウムに、その原子核と融合できる高いエネルギーを持ったカルシウム48イオンのビームを照射するのだそうです(パリティ、Vol. 25 No.07, p. 41より)。論文の著者も33人にのぼっています(http://prl.aps.org/abstract/PRL/v104/i14/e142502、そんなことぐらいでしか実験規模を判断できなくてすみません)。

また、この元素とは関係ないですが、マイナーな元素でも、誰が調べたのか知らないが意外とその特性(原子量や融点、沸点や毒性のほかにも、エネルギー準位などの内部構造も含めて)が調べられています。私も、たまに普段扱っていない元素を調べることがありますが、大体調べられています。ほんと、どこの誰がやっているんだろうと思うことがあります。

でも実際、意外なものが意外な用途で使われることがあります(やってる人からすると全く意外でもないんでしょうけど)。私の知っているところでは、研究レベルではありますが、原子番号70のイッテルビウムという元素が時計に使われています(http://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/nr20090729/nr20090729.html)。他にも用途があるようですが、なかなか素人にはどんな元素が役に立つのかの判断なんて、難しいものです。

ちなみに、こんな事思うのは時代遅れかもしれませんが、ロシアとアメリカが共同研究する時代なんですねえ。アメリカの大学で政府から資金をもらいながら研究するロシア人もいるでしょうから、いちいち驚く程でもないんでしょうが‥。良い成果が出てよかったです。

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たかが4%されど4%

ダイビングすると、ウツボという生物をよく見かけます。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%84%E3%83%9C

いつも岩の間からイカツイ顔を出して、今にも噛み付きそうな感じで口をパクパクさせているんですけどね。

近づいても、至近距離でカメラのフラッシュ炊いても、全然襲ってこないんです。それどころかエサのはずの小魚が目の前を通りすぎても無視なんです。

インストラクターによると死にかけた小魚しか食べないらしいです。だったら、なんで常に顔を出して臨戦態勢なんだろう…

と考えていたら、眠れませんでした。

さて、本題です。


今日はナショナルジオグラフィックニュースから。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100708001&expand#title
以下、引用します。

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陽子は通説より小さいと示す実験結果

原子の構成要素である陽子は通説よりも小さいとする実験結果が発表された。今後、物理法則の根本がひっくり返ってしまうかもしれない。
すべての原子は原子核とその周囲にある電子で構成される。原子核は中性子と陽子から成り、両者はクオークと呼ぶ粒子でできている。長年、陽子の半径は0.8768フェムトメートルとされてきた。1フェムトメートルは1000兆分の1メートルを表す。
陽子の半径は、60年の歴史を持つ量子電磁力学(QED)理論の方程式に不可欠な数値だ。重力以外のあらゆる力が素粒子に及ぼす影響を説明する素粒子物理学の標準模型も、QEDを基礎にして成り立っている。
しかし、まだ1%の誤差が残っており、QED理論を完璧なものとするには精度が足りない。物理学者たちは誤差を解消する方法を模索してきた。
ドイツ、ガルヒンクにあるマックス・プランク量子光学研究所のランドルフ・ポール氏率いる研究チームは、水素原子を変化させる特別な粒子加速器を使用して10年間にわたり実験を行った。水素原子は、陽子と電子1つずつで構成されている。
実験では、水素原子の電子を、その200倍の質量を持つミューオンと呼ぶ粒子に置き換えた。
研究チームのメンバーで、スイスのパウル・シェラー研究所に所属するアルド・アントニーニ(Aldo Antognini)氏は、「ミューオンは非常に重いため、陽子のすぐそばを周回する。つまり、陽子のサイズに影響を受けやすくなる」と説明する。
ミューオンは不安定な粒子で、わずか2.2マイクロ秒でほかの粒子に壊変する。壊変前に原子へ向けてレーザーを照射すれば、ミューオンが励起し、高いエネルギー準位、つまり高い軌道に移ることは既に知られていた。その後、余分なエネルギーをX線として放出し、低いエネルギー準位へと戻っていくはずだ。
エネルギー準位にどれくらい差が生じるかは、陽子の大きさによって決まる。また、陽子の大きさは放出されるX線の周波数も左右する。
しかし、従来の陽子半径から予想される周波数のX線は放出されなかった。
そこで2009年夏、研究チームは有効と思われる陽子半径の検出範囲を逆に広げてみた。すると驚くことに、半径0.8418フェムトメートルに対応する周波数が検出された。従来より4%も小さく、誤差の範囲を超える数値だ。「われわれもびっくりしている。今はまだ、どうしたら説明できるかわからない」とアントニーニ氏は話す。
今回の発見が普通の人々の日常に影響を与えることはまずない。しかし、正しいと証明されれば、素粒子物理学の根幹を揺るがすことになる。
もし陽子が小さければ、リュードベリ定数が間違っていた可能性が出てくる。リュードベリ定数は、さまざまな元素から光がどのように発せられるかを表し、分光法に欠かすことができない。分光法は、ガスとちりでできた巨大な星雲や銀河に存在する元素の解明などに用いられている。
リュードベリ定数が間違っていなければ、今度はQEDの方程式が成り立たなくなる。英国国立物理学研究所の科学者ジェフ・フラワーズ氏は実験結果を受け、「まさに激震だ。QEDを丸ごと見直すことになり、新たな理論の扉が開かれるかもしれない」と語る。
今後は、世界中の物理学者が実験方法や複雑な計算を精査し、間違いがないかどうかを確認する。もし間違いが見つからなければ、次は標準模型を作り直すことになるかもしれない。
この研究結果は、「Nature」誌の7月8日号に掲載されている。
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要するに、従来の測定方法では陽子の半径を測定するのに1%の誤差があったから、もっと正確に真の値を得ようとして精度の上がる手法を使って測定してみたら、従来の測定値に合わなかった、ということでしょう。

そりゃ驚くでしょうなあ。普通は新しい測定値も従来の測定値+-誤差の範囲内に出てくるはずですから。従来の誤差の範囲の中のいったいどの値なのかを知りたくてより精度を上げて測定したら、従来の誤差を明らかにはずれた値が測定されたわけです。

陽子の半径が従来知られてきた値よりも小さいとすると、リュードベリ定数かQEDのどちらかが塗り替えられる可能性があると書かれております。リュードベリ定数は原子のエネルギー準位を決める非常に基本的な物理定数の一つですし、すでに12桁くらいの精度で測定されているようですから、これが大きく塗り変わるようなら衝撃でしょう。じゃあ、今までのリュードベリ定数の測定値はどうして出てきたんだ?となります。QEDを見直して標準模型を作り替えるなんてことになったら、素粒子物理の根幹を揺るがすのでしょうし、それこそすごいことでしょう。

この先の確認作業の結果がどうなるか分かりませんが、理屈通りに行かない方が物理としては面白いんです。

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プロフィール

バラッくま

Author:バラッくま
色々あったのち東京深川在住の科学技術系の研究者。
クマに似ている。最近はカピバラにも似ている。
専門: 量子エレクトロニクスなど。
休みのときは、(有休を取ってまでして)落語、スキューバダイビング、スポーツ観戦(相撲など。両国が近いのでうれしい。)、音楽鑑賞などを少しずつ。

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