基本が一番難しい

いやー、このブログを更新するのも1年ぶりですか。

しかし、書かなくなるとネタの記事を読まなくなりますね。やっぱりちょくちょく書いた方が自分のためなんですかね。

ということで、久々に本題です。

今日は、最新トピックスと言いながらも古いネタを。
自然放出という、物理系の学科であれば大学で必ずと言っていいほど教わるものがあるのですが、これがどうして起こるのかを掘り下げた論文の出だしです。論文らしくなく、ファインマンという、超有名な物理学者が若かれし頃の父親との会話で始まります。

以下、私なりに日本語に訳しつつ、適当に抜粋しながら引用します。翻訳に間違いがありそうですが、細かいことはあまり気にしないことにします。

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Why spontaneous emission? (なぜ、自然放出?)
著:P. W. Milonni

・・・私(ファインマン)はMIT, プリンストンを出て、家に帰ってくると、父が言った。
「お前は科学の教育を受けてきた。私はいつも、知りたいと思っていたことがあるんだ。息子よ、それを私に説明して欲しいのだが。」
「どうぞ」
「わたしは、励起状態からエネルギーの低い状態に移った時に原子から光が放たれると、科学者たちが言っているのは分かっている。」
「その通りです。」
「そして、光は粒子の一種で、科学者たちは光子と呼んでいると思う。」
「そうです。」
「じゃあ、もし原子が励起状態からより低い状態に移った時に原子から光子がでるなら、光子はもともと励起状態の原子の中になければならない。」
「いや、違います。」
「じゃあ、もともと励起状態にない光子が出てくるというのは、どう考えればいいんだい?」
私は数分考えて、言った。
「ごめん、わかりません。説明できません。」
彼は、何年も私に教育を施してきたのに、こんな結果になってしまって、とてもがっかりした。
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この親にしてこの子ありということなのでしょうか(もちろん良い意味で)。

自然放出というのは、原子などが独りでに内部のエネルギーを失いながら光を放つことを言います。もう一つ、誘導放出といって、原子などが外部から光を受けることによって光を放つこともあります。一見、自然放出の方が当たり前で、誘導放出の方が不思議なように思えるのですが、よくよく考えると逆なのです。(確か、私が学生の時に、だから誘導放出の概念を導入したアインシュタインは偉大だと、講義で聞いたような・・・。うろ覚えなので定かではないですが。)エネルギーが低い方に向かうのは自然の道理とはいえ、理由もないのにエネルギーを失うのはおかしな話なのです。

この論文によれば、自然放出とは結局、真空の場(ゼロ点エネルギー)による誘導放出と、自らの放射した光との相互作用によって生じる光の両方なのだそうです。これ以上書こうとすると、どんどん説明が難しくなってしまうので、この辺で手を抜かせていただきます(すみません)。ちなみに、自然放出があって自然吸収がない理由も述べられていて、この辺の物理に興味のある人なら、読んでみても面白いかもしれません。理論の論文によくあるような、プロ以外の人には見る気も失せるような数式で説明されているわけでもありません。

若い頃とは言え、ファインマンですら分からなかったんですから、私なんぞに分からないのは当然でしょう。ただ、難しい数式などを並べて説明せずに、言葉でうまく説明する術を探したところが、ファインマンたる所以なのかもしれません。

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小さいけれど不思議なマント

鶏のから揚げにこれまで3度挑戦してみました。

どんどんダメになっていきます。

最後のなんて、「鶏のジメ揚げ」になってしまいました。箸についたまま持ち上がるし。衣は歯に絡みつくし。

自らのセンスのなさに打ちひしがれつつ、本題です。


今日は、パリティ Vol. 26, No. 11, 2011, pp. 13 – 19より。以下、題名と要旨のみ引用します。

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メタマテリアルを用いて光の空間を曲げる

マーチン・ウェゲナー、ステファン・リンデン (北野正雄 訳)

物質の各部分の電気的、磁気的性質を制御することにより、光の進む方向を自在に操る研究が進んでおり、それを利用した革新的な光素子が考え出されている。
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私にとっては聞いたことはあるけど、どういうものなのかよくわかっていなかったメタマテリアルのお話です。

ウィキペディアによれば、メタマテリアルとは「光を含む電磁波に対して、自然界の物質には無い振る舞いをする人工物質のこと」とのことですが、この記事によればどうも「電磁波の電場と磁場成分を独立に制御できる」ことが重要らしい、ということが分かりました。普通は、電磁波の電場成分しか直接的に操作できないそうです。確かに、電磁波をお勉強するとき、電場についてはよく考えるけど、磁場の方は電場が決まれば決まるような、付け合せみたいな感じだとは思っていました。

電場と磁場を独立にうまく制御してあげると、たとえば普通は空間をまっすぐに飛ぶはずの光の進行方向をグニャッと曲げることができるそうです。うまく使うと、透明マント(これをかぶせるとあたかもそこに何もないかのように見えてしまうもの)ができるそうな。

ただし、電磁波の波長が小さくなると、メタマテリアルの構造も小さくする必要があるので、1ミクロン以下の微細加工技術が必要になるそうです。また、光領域では金属の性質がかわってしまったりするなど、いろいろと厄介なこともあるようです。それでも、10 ミクロン程度の大きさで波長1.5 ~3.0ミクロンの範囲であれば、透明マントはすでに実現しているようです。我々の目で見える波長が0.4~0.7 ミクロン位ですから、「おしい」といったところでしょうか。

大学で電磁波の勉強をしていて、「電場ばっかりだけど磁場はどうなったの?」と思った人は私だけではないと思いますが、これを掘り下げるとこんなネタになるんですねえ。疑問の方向は間違ってなかったのでしょうか。とはいえ、そこで終わっているようではいけないということでしょうかね。

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実在しないもの?の凝縮

この間、生まれて初めて鶏のから揚げを作ったら、全てくっついてしまいました。

現在、原因を解析中です。

世のお母さん方は凄腕だなあと思いつつ、本題です。


今日は、パリティ、vol. 26 No. 9 2011, pp. 32-35から。

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光子のボーズ・アインシュタイン凝縮

マーク・ウィルソン (久我隆弘 訳)

実現の鍵は、光子と色素分子とを光共振器に長く閉じ込め、熱平衡状態にすることだった。
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光の粒である光子は実際には存在しないとおっしゃる偉い方もおりますが(以前のブログ記事)、それがボーズ・アインシュタイン凝縮(略してBEC。本文によれば、「ボゾン系が十分に冷却された際、系の自由エネルギーを最小化するために数多くの粒子が1つの量子状態に凝縮するという特異な状態」)してしまったというのです。

光子なんてものは、難しく考えずに光は粒だと思ってしまえば何のこともなく分かるものですが、ちょっと深く考えると何だかよくわからないことも出てくるように思います。それのBECというのだから、正直私にはついていけない部分もあります。

何が分からないのか?と言われるとまた難しいのですけど、一応書いてみます。
1. 原子のBECの場合には多くの原子の波動(原子波)がそろうというのが特徴だったはず。一方で、光の波がそろうものとしてすでにレーザーがあるはず。今回の光子のBECというのは、いったい何者なのだろう?
2. 共振器の一つの横モードを光子が占有することを光子のBECと言っているようだけど、単一横モードのレーザーならほかにもありそう。
3. 光の位相が精度よく決まると光子の数を確定することが原理的にできなくなるはず。光子のBEC状態では光子の数はとても大きく揺らぐらしい。数すら決まらないもののBECって、いったい何なのだろう?

なじみのない人には全く意味不明な話になってしまいました。詳しい人は「バーカ」って思うんでしょうねえ。まあ、原典を読めって話なんでしょうけど、まったく分かる気がしないんだよなあ。

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塞翁が馬

恥ずかしながら、ついこの間初めて気づきました。
プレステ3のコントローラがワイアレスであることに。

どおりでケーブルが短いと思った。

この抜けっぷりが私らしいと思いつつ、本題です。


今日は、「応用物理」の2011年9月号p. 779より。以下、要旨のみ引用します。

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局在プラズモンと分子結合系の物理

石原 一

金属微粒子構造近傍では入射光に比べて著しく高強度の電場を伴う局在プラズモンが発生する。この局在光電場を利用すれば分子のような反応断面積の小さな対象に光を効率よく作用させることができるため、これを利用して高感度な計測や観測、運動制御を実現するための研究が盛んになっている。最近では、単に増強場が分子に働きかける側面だけではなく、金属構造と分子が量子力学的な結合系として振る舞う点に注目することによって分子光学の新しい可能性を探求する研究も現れてきた。本稿ではこのような視点を取り入れた理論的考察を例にして、局在プラズモンを利用した分子光学の新しい可能性を議論する。
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なぜ今回この記事を取り上げたかというと、こんな感じのテーマで面白いことができないかなあと、以前思っていたことがあるからです。もっとも、これと同一というわけではないし、そんなにアイデアを練り上げていたわけではないですが。

あまり詳しく解説しませんが、重要なことの一つは分子の特性を、局在プラズモンというもので変えられることだろうと思います。普通、分子などを光で操ろうとしたら、分子の特性を変えられないものとして、実験系を組んでいくはずです。しかし、金属微粒子に光を照射することにより生成する局在プラズモンを使うと、操りやすいようにうまいこと特性をかえつつ、分子などを操作できるんじゃないか?それは面白そうだと思えるわけです。

雇われの身の私は、今はこの記事とは直接関係のないテーマの研究のために雇われていて、なかなか好き勝手にはテーマを選べないわけです。研究者は好きなことを自由にやっていると思われる人は多いでしょうが、必ずしもそうでもないと思います。とはいえ、雇い主から降ってきたテーマに対して、「それやってみるか」と思ってやっているわけだから、いやいややっているというわけでもないですが。

研究のテーマは独創的でなければいけないわけだから、上から降ってきたテーマを従順にやっているなんて軽蔑されそうですけどね。とはいえ、テーマを考え出すといっても、自分の知識と経験と思考からしか出てきませんからねえ。やっていれば新しい重要なテーマが見えてきたりもしますから、それ自体が不幸せとは思いません。派生したテーマにも手を出せるくらいの少しの自由があれば、良い研究ができそうな気がします。

iPS細胞の発見で有名な山中先生も「塞翁が馬」だと言っておられます。
http://homepage2.nifty.com/KTC/lib/ktc68.pdf
それにしてもこの先生、講演がうまいなあ。

取り上げた記事とは全然関係のない方向に進んでしまいましたが、
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周波数が違うだけだけど

一か月も更新が開いてしまいました。どうもすみません。またちょくちょく更新することにします。

さて、ついにおじになりました。

おそらくクマおじさんと呼ばれることになるでしょう。

私は昔から子供とお年寄りには人気があるのですが、この子の場合もそうであってほしいと願いつつ、本題です。


今日は、パリティ Vol. 26, No. 04, 2011のpp. 42-43に載っている「テラヘルツギャップにおける発振出力の新記録」というニュースから膨らませていこうと思います。

ここでいうテラヘルツというのは、光よりも周波数が低いがマイクロ波よりも周波数が高い領域のことで、最近よく耳にします。これまで光もマイクロ波もたくさん研究されてきたけれど、それらの中間のテラヘルツは扱いが難しく、適切な電磁波源もなかったのだそうです。

この記事の内容は要するに、「2つの周波数の光を非線形結晶の中で混合させると異なる周波数のビームがでてくるという非線形光学効果を利用し、適切な周波数差の赤外レーザーを使ってテラヘルツのビームを発生させた。」「必要なすべての光混合素子をレーザー共振器の内部に設置することにより、出力の新記録を達成した。」ということです。

光だろうがマイクロ波だろうが電磁波であることには変わりないのですが、確かに扱いがかなり違います。マイクロ波だったら導線を伝っていくし、電気回路を用いて信号処理できることになります。それに対して光だったらガラスでできた光ファイバーを用いて導波させ、鏡やレンズなどを用いて処理することになります。マイクロ波領域なら測れていた電磁波の周波数が光でも測れるようになったことで5年ほど前にノーベル賞が出るくらいだから、やはり両者の技術的な違いは大きいと思います。

テラヘルツの領域だとどうなんでしょうか?詳しくは分かりませんが、また違ったものを用いて導波させたりするのでしょうか。とにかく、周波数が違うだけでも、まったく違う技術が必要になるんだろうとは想像できます。

ちなみに、こう書くとマイクロ波の扱いが簡単なように見えるかもしれませんが、そんなことはないと付け加えておきます。高度な技術が要求されることは変わらないし、動作の安定性の高さなど他の電磁波にはない重要な長所をもっていると思います。

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プロフィール

バラッくま

Author:バラッくま
色々あったのち東京深川在住の科学技術系の研究者。
クマに似ている。最近はカピバラにも似ている。
専門: 量子エレクトロニクスなど。
休みのときは、(有休を取ってまでして)落語、スキューバダイビング、スポーツ観戦(相撲など。両国が近いのでうれしい。)、音楽鑑賞などを少しずつ。

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