遊び心も実力のうち

私、2月から4か月間イギリスの研究所に滞在する予定になっています。

いろいろ準備することがあるんでしょうけど、思い浮かびません。

職場の人に尋ねても、
「航空券があって、パスポートがあって、ビザがいらなくて、住むところが決まってて…もうないんじゃないですか?」

私含めて研究者って、大体こんな感じなんでしょうか。

行った先で何か忘れていたことに気付いたら、
「あんなブログやっている暇があったら・・・」
と誰かに言われそうだなあ、と思いつつ、本題です。


今日は、パリティ、Vol. 25 No.12 2010-12, pp. 12-13
「2010年ノーベル物理学賞 (神田晶申 著)」より。

受賞者(ガイム、ノボセロフ)が決まってから数か月たっていますので今更感がありますが、なかなか面白いことが書いてあるので、取り上げてみます。

以下、引用します。

**************************************
ガイムの研究スタイル

このように、ガイムのグループはグラフェンで多くの成果を挙げているが、昔からナノカーボン材料の研究を行っていたわけではない。「大学院の指導教官が与えた研究テーマとほとんど変わらない研究を一生やり続ける研究者もいるが、自分にとっては、同じテーマの研究を何年もやり続けるなんて退屈だ」と本人が言っているように、最近10年あまりの間に、グラフェン以外にも、メゾスコピック超伝導体、ヤモリが壁を登るメカニズムを使った粘着テープである「ヤモリテープ」の開発、反磁性を利用した磁気浮上、ナノ光学などの独創的なテーマを扱い、結果を「ネイチャー」や系列雑誌に掲載している。ガイムいわく、あるテーマについての研究をしている最中でも、つねに物理のみならず科学全般に興味を持ち続け、何かほかに面白いことはできないかと考えている、とのことである。また、ガイムの研究室では、自分達の実験装置を使ってできる、クレイジーだけれどもうまくいけば世の中をびっくり仰天させるような実験(”金曜夜の実験(Friday evening experiments)”とよばれている)に全時間の10%を費やすという伝統があり、その実験のほとんどは失敗に終わるが、うまくいった例が、ヤモリテープ、カエルの磁気浮上、そしてグラフェンの生成である、とノボセロフはインタビューに答えている。最近では”金曜夜の実験”のテーマはグラフェンに限られているらしいが、それがグラフェンの斬新なテーマを次々と切り開く原動力になっているのであろう。
************************************
(下線はブログ主が勝手に引きました)

カエルの磁気浮上に関しては、以前、たしか彼らがノーベル賞を取った直後にこのブログでも取り上げました。(http://ballackuma.blog119.fc2.com/blog-entry-75.html)面白い人たちだなあとは思っていましたが、やっぱり普通じゃないですね。ファンになりそうです。

同じテーマが退屈だ、というくだりに関しては、言うのは簡単ですが、実際には実力がないとできないでしょうね。大学院でやる研究は専門性が高いですから、終了すればその道ではエキスパートですけど、ちょっと分野が違うと学部生レベルになってしまう、なんていうのは往々にしてあるでしょう。実力ももちろんですが、変なプライドがあるとできないことかもしれません。

ただ、そもそも博士号を認定する理由は、特定の分野に詳しいからじゃなくて、研究者としてやっていけそうだから、ということでしょうから、特定の分野でしか通用しないようではいけないのでしょう。少なくとも研究テーマについてこういうマインドを持っておくことは大事なのかもしれません。私自身、博士課程を出てからテーマの違ういくつかの研究室を渡り歩いてきましたが、その経験は足しになっているんじゃないですかね。業績を積むには一つのテーマをやり続けた方がよいだろうけど、単純に新鮮味もありますからねえ。

金曜夜の実験は楽しそうですねえ。イグノーベル賞のカエルの磁気浮上と本家ノーベル賞のグラフェンがここから生まれたんですね。すごいことです。全時間の10%というのはウソだろう(もっとやっているだろう)と思いますけど。やはり、遊び心って必要なんですねえ。


次の更新は2月(イギリスに出発した後)になるかもしれません。むこうでは、イギリスならではのネタが書けたらいいなあ、とは思っています。

気に入っていただけたら1クリックを
にほんブログ村 科学ブログへ

スポンサーサイト

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

本当はすごい?イグノーベル賞

今年は2人の日本人がノーベル化学賞を受賞しましたね。おめでたいことです。

さて、ノーベル物理学賞はグラフェンの発見に対して送られました。グラフェンに関しては何回か前にこのブログで取り上げました(http://ballackuma.blog119.fc2.com/blog-entry-72.html)。2人の方が受賞しているのですが、そのうちの一人、Geim氏は過去に、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられるイグノーベル賞も受賞したことがあるそうです。

その理由が、「カエルと力士を浮揚させるための磁石の使用に対して」だそうです。力士に関してはよく分かりませんが、カエルが浮揚しているようすはYoutubeにありました。
http://www.youtube.com/watch?v=m-xw_fmB2KA

いやー、面白いですねえ。

これを見たバイオ研究者の妻曰く:
「これ何ガエル?」
私:「えっ、とても若いカエルとしか書いてないけど…」
妻:「テキトーだなあ。アフリカツメガエルだけど、tropicalisとlaevisのどちらだろう?」

バックグラウンドが違うと、目の止まるところが違うんだなあと再認識して、引き続きこの話題を。


このカエルは磁気で浮揚しているのですが、別にカエルに磁石を埋め込んだとかいうわけではないようです。私はざっと調べただけなのでよく分かっていませんが、とにかくカエルを構成する原子分子の反磁性を利用しているのだそうです。

反磁性というのは、磁場をかけたときに反発する力が働くような磁性、とでもいえば良いと思います。要するに机の上に磁石を置いといてその上に反磁性体を持ってくれば、重力に逆らう上向きの力が働くわけです。超伝導体のような特殊なものが反磁性体の代表例で、私も超伝導体を浮かせる学生実験をやったと記憶してます。でも、別にそんな高度なものを使わなくても、カエルにも強くはないけど反磁性があるから十分な強さの磁場をかければ浮くんだ、ということを示すのが実験の目的だったようです。なんか、このブログで数回前に紹介したお菓子のゼラチンでレーザー発振させるのとよく似ています(http://ballackuma.blog119.fc2.com/blog-entry-71.html)。

この研究成果をまとめた論文のリンクを張っておきます。
http://iopscience.iop.org/0143-0807/18/4/012/pdf/0143-0807_18_4_012.pdf

たいていの人は読む気になれないでしょうけど(私自身、最初の1ページ目とカエル浮揚のページをざっと読んだだけですが)、ざっと眺めるだけでも真面目に科学していることが感じられるんじゃないかと思います。単に上向きの力を与えるんじゃなくて、空間の一点で安定して浮いていられるように計算されているようです。電場や磁場でポテンシャルの極大や極小を作れない事を示すアーンショーの定理に関わる、かなり深い話だと思います。

そういえばグラフェンの発見も、粘着テープでへき開するという、現代科学とは思えない手法だったと思います。カエルを浮かせるのと同じノリでやったのでしょうか?

ちなみに、今年のイグノーベル賞は「粘菌を使って鉄道網の最適な路線を設計できることを示したことに対して」北海道大学の方たちを含めたグループに送られています。このブログでも取り上げました(http://ballackuma.blog119.fc2.com/blog-entry-32.html)。北大は今年、本家のノーベル賞とイグノーベル賞を同時受賞ですか。おめでとうございます。

気に入っていただけたら1クリックを
にほんブログ村 科学ブログへ

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

炭素恐るべし

出張からの帰り道で、電車の網棚に荷物を置き忘れてしまいました。

無事見つかって引き取ることはできたのですが、秋葉原で見つかったから秋葉原まで取りに行ってくださいとのこと。つくばまで持ってきてくれてもいいのに…

結局翌日に秋葉原まで行ってトンボ帰りしてきました。

つくばエキスプレスならまだいいですけど、これが東海道線とかだったらどうなるんでしょうか?どなたか情報くださいとお願いして、本題です。


今日は、パリティ、Vol. 25 No.08 2010-08, pp. 4-9より。以下、タイトルと要旨のみ、引用します。

*******************************
グラフェンを超える

コスチャ・ノボセロフ (神田晶申 訳)

2004年に初めて単離された原子1層の厚さの炭素シートであるグラフェンは素晴らしい性質を持ち、基礎物理学の分野に多くの新発見をもたらした。その化学的な”いとこ”にあたるグラファンでは、もっとびっくりすることが起こるかもしれない。
********************************

炭素原子1層でできたシートに関する話題です。鉛筆の芯に含まれる黒鉛はグラフェンと呼ばれる炭素のシートが積み重なってできているそうですが、この一層分だけを取り出す技術が2004年に発見されたそうです。しかも、粘着シートで劈開するという、単純な方法なのだそうです。

グラフェンは強度が強くて電気をよく通し、光も透過して化学的に不活性など、いろんな特長があるようで、さまざまな応用が期待されているそうです。

電気を通しすぎる場合があるそうですが、水素を結合させると絶縁体になって電気を通さなくなるそうです。この絶縁体シートをグラファンと呼ぶのだそうです。

これらに加えて、もし導電体と絶縁体の中間的な特性をもつ材料が開発できれば、新しい電子デバイスが作れるのではないかと論じられております。既存のデバイスとは違ったものができそうな気がしますし、周期律表に載っている元素の約半分が使われている既存の集積回路が炭素に置き換われば、資源という観点からも効果は大きいでしょう。尖閣諸島の問題で中国に輸出を止められたと言われているレアメタルがなくても電子デバイスが作れるということになるのでしょうか。もっとも、既存の半導体デバイスはとても高度に発達しているだけに、これを完全に新しいものに置き換えるのは、とても一筋縄で行く仕事とは思えませんが、未来のことはわかりませんから、期待してみてみることにしましょう。私はこの分野にはほとんど馴染みがないですが、日本の炭素に関する技術が高いというのはよく耳にします。

気に入っていただけたら1クリックを
にほんブログ村 科学ブログへ

量子力学の方が簡単?

近所のタイマッサージ屋で、妻がマッサージ師になることを勧められたそうです。

バイオ研究者からの転身ですからねえ。さすがにないでしょう。

でも、私が実験台にさせられたらどうしようと思いつつ、本題です。

今日は、パリティ Vol. 25 No.03 pp.14-21から。以下、タイトルと要旨のみ、引用します。

****************************
量子乱流の不思議

坪田 誠

低温でボーズ・アインシュタイン凝縮を起こした系では、量子渦という超流体の渦が存在する。量子渦が作る乱流を量子乱流という。今日、低温物理学におけるもっとも重要なテーマの一つとなっている量子乱流の研究は、レオナルド・ダ・ヴィンチ以来の自然の大きな謎である乱流に肉薄する新たな路をひらくばかりでなく、非線形・非平衡系物理へ量子の観点をもちこみ、新たな分野を構築することが期待されている。
****************************

乱流というのは水の流れにしろ、空気の流れにしろ、そこら中にある話だと思いますが、これを予測し制御するのが本当に難しいようです。確かに、そんな気はします。ちょっとした条件の違いでぜんぜん違う流れになりそうですし。ナックルボールや無回転シュートが不規則に変化するのも、ボールの周りにできる空気の流れによるものです。こうしたボールの軌道を予測するのは、科学的にもむずかしいということなんでしょう。

こうした乱流の鍵を握るのは渦なのだそうですが、極低温の液体ヘリウムなどでは渦の循環(速度場の周回積分)と呼ばれる量がある決まった値になるようで、こうした渦を量子渦と呼ぶそうです。普通の渦の循環が任意の値を取るのに比べると量子渦の方が扱い易いようで(「要素還元法を適用できる」という表現がなされております)、こうした量子乱流の研究が活発に進められているそうです。

量子力学というのは不思議なもので、位置と運動量は同時に確定できないとか、確率でしか表現できないとか、ものすごく曖昧なことを言っておきながら、ある決まった値しか取りえない物理量も出てきます。1秒の単位を決めているセシウム原子のエネルギー準位も量子力学によって導かれるもので、古典力学的な基準より遥かに安定な訳ですからねえ。私が読む限りでは、量子乱流の研究から通常の乱流を予測・制御するところまで持っていくのは大変な作業だと思いますけど、こういうボトムアップ的な手法から見つめていくのも重要な事なんでしょうね。

気に入っていただけたら1クリックを
にほんブログ村 科学ブログへ

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

身近で奥の深い謎

ちょっと時期を逸してしまいましたが、クリスマスソングで「主は来ませり」ってありますよね?
私わりと最近まで、何語かわからないけど外国の言葉だと思っておりました。"Shwaq imas eli"とでも書くのかなあと。まさか日本語だったとは…

と思っていたら、「聖おにいさん」という漫画に出てくるイエスさんも、そう勘違いしているようです。

妻にバカにされていたところ、ひょんなところで仲間に出くわしたことを喜びつつ、本題です。

今日は雑誌パリティ、Vol. 24 N0.12 2009-12, pp.13-pp.22, 「謎に満ちた雪の結晶」から。

この記事はカリフォルニア工科大学のケネス・リブレヒト先生が書いたものを北海道大学の古川義純先生が和訳したものなのですが、ここはおかしいとか、ここで取り上げられるべき成果が無視されているとかが、訳注および翻訳者によるコラムとして欄外に9つ指摘されております。よくあることとはいえ、この分量の記事で9つというのはさすがに珍しいと思いますし、門外漢の私の目で見ても、些細な指摘事項ではないように思えます。

その中から、コラム「雪結晶の晶癖変化のしくみに関する日本の研究」について触れたいと思います。第一段落の一部を引用すると
「1980年代以降、雪結晶の形態変化に関する理解は急速に進みつつあり、とくに日本人研究者の寄与が大きい。本解説では、このような進展についてふれられていない。」とあります。「何故に日本の研究を無視するんだ?」という翻訳者の思いがひしひしと感じられます。やはり、1930年代に最初に雪の結晶の研究を始め、世界初の人工雪を生成した故・中谷宇吉郎先生からの伝統もあって、こと雪の結晶の研究に関しては日本のレベルは高いのでしょう。

雪の結晶は多種多様な形を持っていて、大きく分けて平べったい角板状のものと細長い角柱状のものに分けられるのだそうです。これが温度が0度から低下するにつれて、角板状→角柱状→角板状→角柱状と変化していくのだそうです。どの雪の結晶もおおもとは半径と高さがほぼ同じの六角柱から成長をスタートさせるようで、温度条件を変えるとどうしてこう形を変えていくのかがかつて謎だったそうです。その謎の鍵は表面の状態で、低温では結晶の表面がなめらかで成長速度が遅いのですが、ある温度よりも高くなると表面が荒れて成長速度が早くなり、さらにある温度よりも高くなると表面に薄い液体層が生じて中間的な成長速度になるとのことです。これらの転移温度が元の六角柱の底面と側面で異なるため、温度条件によって側面の方が底面より早く成長したり、その逆が生じたりするのだそうです。
例えば、底面の転移温度を-10度および-4度、側面の転移温度を-20度および-10度とすると、

           -20度   -10度   -4度   0度
底面の成長速度  小     小    大    中
側面の成長速度  小     大    中    中
形          (柱)    板    柱    (板)

となるのだそうです(カッコ内は本文中には直接には記載されておりません)。実験では転移温度は高温側にシフトしていますが、定性的にはよく一致しているとのことです。

雪の結晶が現在でも謎に包まれているというのには驚かされます。国際宇宙ステーション「きぼう」では、「氷の結晶成長におけるパターン形成」なる実験も行われたようです。

気に入っていただけたら1クリックを
にほんブログ村 科学ブログへ


テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

バラッくま

Author:バラッくま
色々あったのち東京深川在住の科学技術系の研究者。
クマに似ている。最近はカピバラにも似ている。
専門: 量子エレクトロニクスなど。
休みのときは、(有休を取ってまでして)落語、スキューバダイビング、スポーツ観戦(相撲など。両国が近いのでうれしい。)、音楽鑑賞などを少しずつ。

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
気に入っていただけたら1クリックを
人気ブログランキングへ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード